派遣法改正(2015)メモ~派遣社員とは、有期雇用の派遣先で就業する社員

 

 

法律雑誌は高いな。まあ、買って読んでみたので感想。ちなみに、司法試験予備試験では労働法は試験範囲外。司法試験でも選択科目なので、まあ個人的な勉強のためです。

 

1.ジュリストという雑誌

左派色の強い雑誌、というイメージでいたが、そんなこともなく、ビジネスマン向け法律雑誌、という特色を出しているとか。なので、派遣法についても連合の副局長だけでなく、経団連の人も論考を寄せている。

厚生労働省

労働法の法学者

・ビジネス系大学院の学者

・経済学者

・連合

経団連

 という執筆人で、ビジネス系、経済学系の分析がなかなか新鮮だった。法律雑誌、というだけではないと。

 

2.派遣先企業

 実は、今回の改正で影響が少ないというか得したのは派遣先だろう。「労働契約申込みみなし制度」が2015/10/1スタートに対して、2015/9/30から今回の改正法が施行なので、偽装請負なり期間制限なりでグレーゾーンだった派遣社員を直接雇用(無期・有期)する義務がなくなった、というのが大きい。

 具体的には、専門26業務を一般派遣で受け入れていた場合で、付帯決議があるので9/30時点で締結されている契約については旧法で扱われると。

 

sakabesharoushi.hatenadiary.jp

 

 社労士さんのブログ。

 

 たぶん、今の3ヶ月契約とかで派遣されている専門26業務の派遣社員さんは、次回の更新時には新しい法律上での契約になるので、専門26業務の人は残念ってところ。ただ、これまでの派遣期間の扱いはどうなるのだ? ちょっと不明。

 

 あとは、派遣先企業としては、使い勝手がよくなったというか、わかりやすくなったというのはあるのだろう。連合の人は事業所ごとの期間制限が実質なくなったことを批判するが、ビジネススクールの人は「一般的熟練」が求められる、「外部労働市場」として活用される労働力が派遣社員で、そこを帯として利用するのは合理性がある、と見解の相違がある。

 つまり、誰にでも出きる仕事や、専門性があるがやり方が決まってる仕事については、企業としては従業員を雇う必然性はなく、アウトソースするという選択肢もある、というのがビジネス的な考え方。「常用代替の防止」に対する賛否自体が違ってくると。

 対して、「企業特殊的熟練」を求めるのがプロパーの正社員で、ということになるが、そうでない労働者も、連合としては正社員で雇え、という意見になるか。

 

3.派遣元企業

 実は、一番対応が大変なのが派遣元企業なのだろうと思う。特定派遣の廃止で、届出制から許可制になった、きゃりアップ支援なり何なりがあると。あとは、労働契約法の改正(2013)で、5年有期雇用で雇うと派遣社員であっても無期雇用に転換する必要があると。

 このあたり、業界的に結構な変化があるのかなとも思う。無期雇用の派遣が増える、というのはたぶんあるだろうし、かといって、1ヶ月、3ヶ月更新の派遣社員をどこかで切る、という方向もあるか。このあたり、事例によって裁判例が結構違うのでなんとも。

 

4.派遣社員

 自ら派遣を希望する本位型が43.1%、不本意型が43.2%というのが2012年の厚生労働省の調査結果らしいが、2つに分けて考えるとする。なお、無期雇用の派遣社員、今だと特定派遣の社員については別とする。SIerに多いケースだね。

 

 本位型の場合は、専門26業務でずっと同じ派遣先で働いてきた、というような人にとっては今回の法改正は損かもしれない。3年という期間制限が加わって、あまり嬉しくないと。

 また、その専門業務という枠がなくなったのもあって、仕事の範囲が増える等もありうるのか。

 ただまあ、色んな職場を見たくて派遣社員やっている、というような人にとっては影響はそうないか。仕事内容が無限定の正社員が嫌で派遣社員、という人で今の職場が気に入っている、という人にとっては残念な話。

 あとは、派遣元会社に色々と課せられてる部分の影響だが、ここは未知数。届出制から許可制になるというので、小さい派遣会社は淘汰される可能性もあると。

 

 不本意型の人にとっては、みなし制度がまあ「骨抜き」にされたのでがっかり、というところか。具体的には、中小零細企業の正社員になるより、大企業で派遣社員として働くほうがいい、と派遣社員を選んだような人で(大企業に正社員として採用される実力はない)、専門26業務扱いで働いてきて派遣先の社員になれる、と期待していたが、その機会はかなり稀なものになったと。

 まあそこは、これまでの法律が曖昧でわかりづらかった、というところで、派遣先としてはトラブル回避で派遣社員を避ける動き(雇い止め含め)を各方面が阻止した、というところなのだろう。派遣先が善意無過失かというと微妙にしろ、法律の基準がよくわからないところにあるのだから、違法か適法か判断しようがなかった、というのがこれまでの状態なのだと言える。

 この部分については、案外連合の人も理解を示している感じがある。みなし制度はちょっと法律として筋が悪いな、と個人的にも思う。派遣先にペナルティとして派遣社員を雇わせる、というような発想が民主党っぽい。というか、派遣の実態に対してイマイチ合致してない感じか。ビジネススクールの人の言葉で言えば、外部労働市場なわけで。まあ、ちょっとうまく説明できない。

 

 その他、不本意型の人にとっては、本位型と同様に派遣元企業の規制強化なり、キャリアアップ支援うんぬんなりで影響があるが、そこは未知数。期間制限については分かりやすくなったと感じる人もいるかもしれないし、なくなって残念という人もいるかと思う。具体例の、中小零細企業の正社員より大企業で働く派遣社員、という人にとっては1つの部署で3年、というのはプラスかマイナスか、ちょっとまだわからない。

 むしろ、労働契約法の改正で、5年超を有期雇用で働いた場合には無期転換の権利が出る、という法律が加わったが、そっちの動きのほうが大きいのかもしれない。ただ、派遣元企業の無期雇用社員(≒正社員)ということなので、本人の志向とは違うかもしれない。

 また、派遣元企業としては、無期雇用転換は避けたいから契約を短くする、という動きが出るなら、不本意型にとっては不利な状況となる。不利な契約が増えることになる。

 

 このあたり、法律に対して、実社会がどうなっていくのかは未知数。誰も知らないところ。無期雇用の派遣社員が増えるかもしれないし、5年未満で雇い止めの派遣社員が増えるのかしれない。

 

5.まとめ

とはいえ、日本の派遣労働者の割合は労働者全体の1.4%でしかない。100万人くらいか。

 

統計局ホームページ/労働力調査(基本集計) 平成27年(2015年)10月分結果

 

 133万人でした。正社員1997万人、パート986万人、アルバイト408万人、契約社員281万人、嘱託114万、と。派遣社員よりも契約社員のほうが問題は多いかもしれないが、まあわからない。

 とはいえ、派遣社員というのを、派遣先で就業する有期雇用の契約社員、と考えるなら、問題は契約社員と同じということになるか。つまり、有期雇用の社員の問題と。

 

 133万人のうち、半分が本意型、半分が不本意型として66.5万人の不本意型の人にとっては、みなし制度が骨抜きにされたのは残念。派遣先としてはラッキー。派遣元としては、色々と義務なりが増えて大変かもしれない、というところ。そこで、派遣社員の人にとってはプラスになる面も出てくるかもしれないし、逆の動きになるかもしれない。そこは未知数。

 

 このあたり考えると、問題は解雇規制と雇用流動性というところになるが、(あと、職種別の労働組合がないところ、企業別しかない)、まあ、しばらく様子を見るしかないですね。