マタハラの時代~20代でのリストラの始まりか。女性労働者のコスト、リスク、アグネス論争

www.asahi.com

「妊娠や出産を理由にした嫌がらせであるマタニティーハラスメントをめぐり、厚生労働省は30日、妊娠や出産、復職などから1年以内の降格や契約打ち切りなどの不利益な取り扱いは、原則として男女雇用機会均等法などに違反すると判断することを決め、公表した。マタハラをめぐる指導が厳しくなることで、企業は対策を迫られそうだ。」

「「本人の能力が低い」などの理由をつけても、妊娠や出産、復職から1年以内は、社員にとって不利益な取り扱いは違法」

「妊娠前から能力不足について指摘がされ、機会もあったのに改善の見込みがない場合などを例外」

 

という記事。たぶん分析記事も色々出てくるだろうが雑感。

 

去年10月の最高裁判例については、妊娠を理由に仕事を変えた後に降格としたのが違法、というところだった。不利益扱いということだ。

 これについて、「仕事内容が軽くなって部下もいないのだから、「降格」は仕方ないだろう」という意見もあるだろうが、そういうのは通らなくなったというわけだ。

 

************************

 

 「マタハラ」という言葉は、この数年で出てきた言葉だったと思う。それがここまで一気に広がった。

 結局、少子高齢化というところが問題なので、ネットだと「妊婦様」と揶揄されたりもするところがあったりするし、ベビーカー論争なども色々あるが、まあ、そうはいっても少子高齢化の先にあるのは国家の危機、民族の危機なので、単なる「女性のわがまま」扱いではなく、国策として救っていこう、ということで出たのが厚労省(=政権)の判断なのだと思う。安倍政権は実はフェミニスト政権なんじゃないか、といった反発も実は右派にはある。女性活用だとかね。

 

 先にアグネス論争について、

アグネス論争 - Wikipedia

 要は、子連れ出勤するアグネスに対して、林真理子が「いい加減にしろ」と批判し、上野千鶴子が噛み付いた、という論争。思想的なところで言うと、林は保守的な立場で、職場に子供をつれてくるなんておかしい、職場は仕事をする場所なのだ、というところ、アグネスはまあ無自覚か。上野は、ラディカルというか、職場のあり方自体、林の価値観自体を否定した、というところ。「職場に子供をつれてくるなんておかしい」という「男性社会の価値観」は女性を阻害している、とかそんなところか。

 

 今回の厚労省の通達も、結局はそれに近いものがある。というか同じか。

 

 「マタハラ」の定義はともかくとして、企業はどういう労働者を評価するか。生産性が高く、長時間働く労働者、というところだろう。管理職としても仕事ができるならグッドだし、新しい事業を作れるなんて人であればもうエクセレントだ。

 そういう観点で行くと、妊婦というのは、というか乳幼児持ちの女性というのは、一線では働けないという点で、低い扱いとなる。長時間働けない、生産性についてはどうかわからないが、まあそういうこと。

 

 で、と。企業としてはリスクがあると。妊娠するリスク。

 

 今後は、リスクが発生したとして、「降格」や「解雇」というのは、ちょっと社会的に非難を浴びる行為となるわけだ。マタハラマタハラと。

 なので、そういう一定期間働けなくなる社員(女性)がいる、という前提で人員計画を行っていく必要があると。もう、そういうのをコストとして想定して考える必要がある、と。

 

***************************

 

 たまに、「中小企業だと、妊娠して育児休業だとか言って、人がいないから無理だ」という意見はあるが、そこも、そういう「コスト」を負担したら利益を出せない、黒字になれないような企業というのは、存続しなくてもいい、くらいの感じなのかもしれない。そういうこと言う左寄りの人はいるだろう、と。

 

 ま、なので、昔のように職場は職場、家庭は家庭、ということで、仕事の世界は妊婦とか子供とか無関係でいたい、というような欲求は難しくなる。(林真理子のアグネス論争での主張)

 

 ただ、気になるのは、

妊娠前から能力不足について指摘がされ、機会もあったのに改善の見込みがない場合などを例外」

という点だ。

 

 企業にとって、労働者を上・中・下、とランク付けできるとする。

 上、の労働者であれば妊娠しようが子育てしようが、企業は雇用し続けたい。

 下、の労働者はできればやめてほしい。給料以下の働き。

 中、の労働者は戦力にはなるが、どうしても引き止めたいほどでもない。

 

 として、試用期間で首になるようなケースはあまりないのが実情だが、ここで言う下や中の労働者の場合、企業としては妊娠・子育て、と本人がしている間にパフォーマンスが下がる分と、本人が企業にもたらす利益と、まあコストのほうが大きくなる場合もあるんじゃないか、というのが考えられる。

 もう少し整理すると、女性労働者のAさん、中レベルとして

 

妊娠、出産、子育て、というのがない場合、

 企業がAさんから得る利益 > Aさんに払うコスト(給料他)

妊娠、出産、子育て、というのがある場合、

 

 企業がAさんから得る利益 < Aさんに払うコスト(給料他)

 

というケースがあるかと思う。

上レベルBさんは、妊娠とか関係なく

 企業がAさんから得る利益 > Aさんに払うコスト(給料他)

下レベルCさんは、妊娠とか関係なく

 

 企業がAさんから得る利益 < Aさんに払うコスト(給料他)

 

と、ものすごく単純に考えるとすると。

 

 で、20代でのリストラというのは、今後その女性労働者が妊娠出産子育て、というライフステージに入っても働き続け、その時期はパフォーマンスが落ちる、というAさんのケースを考えて、企業は人事評価をしてくるんじゃないか、ということ。先の

妊娠前から能力不足について指摘がされ、機会もあったのに改善の見込みがない場合などを例外」

という対策として、人事評価が厳しくなるんじゃないか、ということ。

 

 女性に対してそうなるだけだなく、たぶん男性に対してもそういうところは出てくるだろうというので、マタハラの時代=あらかじめ企業はコストとしてそのへんを想定して人を雇う時代、評価してリストラもする時代、ってことなのかな、厳しい時代になっていくかもな、と、雑感です。