今さらながら、トムラウシ山遭難事故の報告書を読んで

http://www.jfmga.com/pdf/tomuraushiyamareport.pdf

 

 チョコレートで11日間(ひとりは9日間)北アルプス上高地あたりで遭難して生き残った女性や、わさびマヨネーズで17日間、草津温泉のあたりの山をさ迷って生き延びた男性がいたりと、登山での「遭難」というと、道迷いのイメージがどうしても強い。次は転落しての怪我で動けなくなって、といったものだろうか。トムラウシの遭難事故は、気象条件の悪化による「気象遭難」というらしいが、冬山で吹雪にあって、というのに近いものだといえる。

 

「シェルパ D(62 歳)を含むガイド・スタッフ 4 人、メンバー15 人の計 19 人。うち 8 名が死亡」という「日本の登山史上未曽有の大量遭難」の報告書pdfがWeb上で読めるのでその感想というかまとめ。

 

・雨というよりも、台風なみの強風だったのがまずかった。

・低体温症は、体力が低下している状態だと2,3時間で死亡に至ることもある。(体力が低下しているからこそ低体温症になるとも言える)

・低体温症とは、恒温動物である人間が体温を36度に維持できなくなるということ。それで、わさびマヨネーズで17日間生き延びた人がいるように、人間は食料がほぼなくても肉体の蓄え(脂肪や筋肉)から熱を作り出して、生き延びるようになっている。(餓死についてはまた別の話なので置いておく)

 ただ、十分に体に脂肪がついていたとしても、脂肪や筋肉をエネルギー(熱)に変えるスピードが、体が冷やされるスピードに追いつかないなら、低体温症になり、死に至ることになる。雪山で雪崩にあって埋められたとして? 冬の海で溺れたとして? どうなるか。今回は、気温5度くらいで台風並みの風雨に晒されて、ということだ。

・食事からの変換されるエネルギーと、脂肪や筋肉から変換したエネルギーと、変換されるスピードは圧倒的に違う。行動食を飴玉一つでも取るのが生死を分ける。

 

・4泊5日(うち1泊目は前泊で温泉、最終日も温泉宿)で、3日かけて45キロくらいの距離を重い荷物を背負って歩くというのは余裕がないときつい。(若い人でも)

・しかも、2泊目と3泊目は避難小屋に素泊まりで、自分の持ってきた食料で食事となる。ここで、荷物を減らすために食事が貧相になり、摂取カロリーが不足していたのも低体温症の原因となった。

・遭難事故が起こったのは4日目。2日目、3日目の疲れもたまっていた。(初日は空港から温泉まで移動だとか)

・登山者に人気の「北アルプス縦走」を山小屋で出される食事を取りながらやるとかよりも、よっぽどきついことを60代の人らがやっていたのだ。食料を自分で持つのだから荷物が重くなる。2000M級だが北海道は寒いので、北アルプスの3000M級と同程度の環境だった。

・もともときつめのコースで、悪天候が重なって、ガイドの力量不足、判断ミスも重なった。

・雨具はみな着ていたし、防寒着やツェルトなどもある程度持っていたそうだが、防寒着は全員がちゃんと着ていたかは不明。つまり、「装備不足」(防寒着不足)が原因というより、それらをちゃんと使ったかどうかが重要。

・風は、体温を奪うというところと、強風の中行動するのにエネルギーがいるので体力を奪う、というのと2つがある。台風の中で、しかも斜面になった山道を歩いていたようなものだ。相当にエネルギーを使うだろう。しかも寒い中をだ。

 

 まとめると、食料を持参するなど荷物が多く(重く)なって(15kgだとか)、もともときつめの計画だった。で、食事の摂取が不十分で前日までの疲れもたまっていたところ、雨と強風の悪天候で一気に体温と体力を奪われて、低体温症になり、ということだ。

 

 ※謹んでおくやみを申し上げます。